熱中症を重症化する意外な危険因子まとめ~最新ガイドライン準拠

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先ごろ公開された最新の「熱中症診療ガイドライン2015」に準拠して、熱中症のリスクを高め、重症化をもたらす様々なリスク要因について、じっくりと掘り下げて解説しています。意外と知られていないこれらの熱中症のリスク因子を、あなたはいくつご存知ですか?

前記事でも説明した通り、熱中症は何より予防が大切ですが、いざ発症してしまった場合は、周りにいる人の初期の対処がその後の重症化を回避する上で非常に重要になってきます。その意味で、「自分はキチンと予防しているから大丈夫!」で終わってしまうことなく、自分の周りにいる熱中症リスクの高い人を、常日頃からしっかりと把握しておくことが重要だと言えます。

そこで今回は、先ごろ公開された最新の熱中症診療ガイドライン2015」に準拠して、熱中症リスクの高い人の特徴について、じっくりと掘り下げてみました。

意外と知られていない熱中症のリスク因子なども網羅しておりますので、ひょっとするとあなたの周りの思わぬ人が、熱中症の発症リスクを高め、重症化をまねく危険因子を抱えているかも知れません。

また、誰あろうあなた自身も、実はご自分で考えている以上に熱中症リスクが高かった…などということも十分にありえる結論になっております。とりあえず結論のみ知りたい方は「 【まとめ】 熱中症が重症化するリスクが高い人の特徴 」へどうぞ。

若年層、中壮年層は男性が危ない

たとえ同じ環境にいたとしても、熱中症になりやすい人となりにくい人がいます。性別で見た場合、乳幼児や高齢者など、一般に”熱中症弱者”と呼ばれる人達を除けば、女性よりも男性の方が熱中症になりやすく、年齢・発生状況別に見た場合、若年層の男性はスポーツで、中壮年層の男性は労働によって熱中症を発症する頻度が高いようです。

若年層の男性はスポーツで

全身の筋肉を動かすスポーツは、体内に大量の熱を生じさせます。この体内にこもった熱は、このままですと体温をぐんぐんと上昇させるのですが、私たちの身体に備わっている自律神経が、下図のような2つの機能を駆使して、熱を発散させ体温を一定に保とうとします

自律神経の放熱機能

① 末梢血管を拡張して、皮膚表面に血液を集め、外気への熱伝導を利用して熱を発散させる機能
② 大量の汗をかいて、その汗が蒸発する過程で生じる気化熱を利用して、熱を発散させる機能

この時に水分補給を怠ってしまうと脱水症状が起こりやすく、熱中症のリスクが跳ね上がります。また、温度と湿度がともに非常に高い環境では、外気への熱伝導効果が低くなってしまう上に、かいた汗も蒸発しにくくなるため、上記の2つの放熱機能が上手く働かず、体温が下がりにくくなるという点も考慮しなければなりません。

さらに、スポーツにより体内で作られる熱の量は非常に多いため、気温がそれほど高くない時でも熱中症になりやすく、体を動かしていない人から見ると「これくらいの気温なら…」と思えるような状況でも、実はリスクが高くなっていることがあるので注意が必要です。一般には気温が24度を超えれば、熱中症による死亡事故が発生する可能性があるとされています。熱中症の兆候に注意を払うとともに、運動の合間に積極的な水分補給を心がけましょう。

中壮年層の男性は労働で

特に暑い屋外での作業を伴う労働の場合、筋肉を動かすことによって体内に発生する熱の量が多くなり、体温が上がりやすくなります。そこで、体温を一定に保とうと大量の発汗があるのですが、この時、適切な水分補給や休憩をとらなければ、熱中症を発症するリスクが高まります。

また、屋外での作業では、頭部に直射日光が当たるので、特に、通気性の悪いヘルメットをかぶっている場合は熱がこもりやすく危険です。通気性の良いヘルメットを選ぶか、下の画像のようなヘルメットの後ろに装着する熱中症対策グッズなどを利用すると良いでしょう。

また、たとえ屋内での作業であっても、高温・多湿な環境での作業が強いられる場合、あるいは通気性の悪い作業着や安全服、防護服などを着用しなければならない場合、さらに安全靴や分厚い手袋を着用しなければならない場合など、体内にこもった熱を発散しにくい状況を強いられる業種も、熱中症リスクが高くなるので注意が必要です。

ただし、労作性熱中症は重症例が少ない

これらのスポーツや労働によって発症する熱中症を”労作性熱中症”といいます。労作性熱中症に関しては、最近では盛んに警鐘が鳴らされ、その予防法などの対策が周知されてきたこともあり、発症例数は年々減少傾向にあるようです。

また、労作性熱中症は健康な人が短時間で発症するため、診断も容易ですし、治療に対する反応も良いので、重症化することが少ないタイプの熱中症だと言えます。十分に注意しなければならないことはもちろんですが、その意味ではそれほど問題視する必要はないと言えましょう。

重症例が多いのは高齢者の非労作性熱中症

これに対して、高齢者では男女ともに日常生活の中で起こる”非労作性熱中症”が多く、特に屋内での発生頻度が増加しており、しかも、この非労作性熱中症は、重症例が多いという特徴を有しています。

高齢者の非労作性熱中症に重症例が多い理由

高齢者になるほど気温の変化を感じる感覚が鈍くなってしまいます。同時に、前述した皮膚表面における放熱の働きも弱まり、発汗による体温調節機能も低下してしまうのです。

また、もともと高齢者は体内の水分量そのものが少なくなる上に、のどの渇きを自覚しにくく、トイレへ立つ回数や尿失禁を嫌がって、自然に水分の摂取量を控えてしまうケースも少なくないため、脱水症を起こしやすいという面があります。

さらに、夏の暑さは活動量の低下、食欲の減退をまねき、それに伴って低栄養化が進んで体力がどんどんと低下する傾向にあります。その一方で、高齢者は狭心症や不整脈などの心疾患や高血圧、糖尿病などの持病を持つ割合が増え、それらの治療のために熱中症の発症リスクに影響のある薬(詳しくは後述します)を服用するケースも、必然的に増えることになります。

以上のように、高齢者は様々な熱中症のリスク因子を潜在的に抱えており、それらが複合的に影響することにより、非労作性熱中症が日常生活の中で徐々に進行し、周囲の人に気付かれにくく、対応が遅れがちになってしまいます。このことこそが、高齢者の熱中症に重症例が多い理由だと考えられています。

熱中症リスクを上げ重症化をまねく意外な危険因子

先ほど、高齢者の熱中症リスクの中でも触れたのですが、病気などが原因で体力が低下している場合や生活習慣病などの持病を持っている場合、特定の薬を服薬している場合については、何も高齢者に限った話ではありません。

例えば風邪などで発熱している時、下痢などの症状が続いて脱水症状を起こしている時などは、それだけでも熱中症リスクが高まると言えますし、特に風邪薬のうち抗コリン作用を有する薬には、発汗を抑制する副作用があるので注意が必要です。

抗コリン作用を有する薬

さらに、この抗コリン作用は風邪薬だけでなく、現在、一般に使われている様々な薬が有しており、その副作用も発汗抑制だけでなく、口の渇きや目のかすみ、眼圧上昇、記憶障害、眠気、便秘、めまい、立ちくらみ、動悸、不整脈、排尿障害など多岐に渡ります。特に高齢者はこの抗コリン作用の影響を受けやすいため、通常、医師は高齢者には抗コリン作用のある薬剤の使用を避けます。(特に前立腺肥大症や緑内障などには禁忌薬とされています)

ところが市販の総合感冒薬や咳止め、鼻炎薬、胃腸薬、睡眠補助薬、酔い止め薬などの一般的な薬の中にも、この抗コリン作用を有しているものがあるので、特に高齢者の方はもちろん、これらの薬をよく使用される方などは、熱中症のリスクを抜きにしても、薬の購入時に抗コリン作用の有無を確認すべきだと言えますね。

自律神経に直接影響する薬

先ほども説明しましたが、体内にこもった熱を発散するために活躍するのは、我々の身体に元来備わっている自律神経でした。従って、この自律神経に直接影響を与える薬…例えば、鎮痛剤や睡眠導入剤などの薬剤は、自然な体温調節機能を低下させますので、熱中症リスクを上げると言わざるをえません。

β遮断薬や降圧剤、利尿剤

狭心症や不整脈、高血圧など様々な疾患の治療に使われるβ遮断薬や降圧剤には、水分や塩分を体の外に排出する作用があるので、脱水症状を起こしやすく、熱中症リスクを高めると言えます。また、同じ理由から、体の余分な水分を塩分とともに尿として排出する薬である利尿剤についても、これらと同様のことが言えますね。

糖尿病は脱水症状を起こしやすい

高血糖時には血液中のブドウ糖濃度が高くなるため、これを薄めようと全身の細胞の中にある水分が血液中に取り込まれます。ところが、これにより血液量が増加すると、その一方で血液中の水分を尿として体の外に排出しようという機能も同時に働くのです。これが糖尿病による多尿・頻尿です。

折角、全身の細胞から水分を取り込むことで、血液中のブドウ糖濃度を下げたにもかかわらず、その一方で増えた水分をせっせと尿として排出するわけですから、結果的に細胞内の水分がどんどんと奪われることになり、この時、適切な水分補給がなされなかった場合には、たちまち脱水となってしまいます。

つまり、糖尿病患者は脱水症状を起こしやすいのです。もちろん、血糖値が高めではあるものの、まだ糖尿病治療には至っていない糖尿病予備軍と呼ばれる方にも、同様のリスクがあると考えるべきだと言えますね。

また、糖尿病の期待の新薬「SGLT2阻害薬」は、血液中の余分な糖を尿と一緒に積極的に排出させることで血糖値を下げるという画期的な薬なのですが、どうしても尿量が増加することにより脱水を誘引するという副作用があります。実際、この副作用をひきがねに、重度の熱中症を発症して死亡した事例も過去に出ているので、「SGLT2阻害薬」を服用されている方は特に注意が必要と言えましょう。

精神・神経疾患の薬

向精神薬や抗うつ薬、抗てんかん薬などの精神・神経疾患の薬には、発汗を抑制する作用があるため、体内にこもった熱を発散する機能を大きく低下させます。しかも、こういった薬剤の中には薬物自体が高体温を誘発するものもあるので、この種の薬剤の服用は、熱中症リスクをさらに高める独立した危険因子とされています。

最近の研究では、向精神薬の内服は熱中症関連死のリスクを 30%も上昇させるとする報告もありますので、これらの薬剤を服用されている方は、薬剤によるこういったリスク上昇があることを認識した上で、しっかりと熱中症対策をとる必要があると言えます。

その他に注意すべき人

その他、腎機能に障害がある方、腎機能が低下し人工透析を受けられている方には、厳しい塩分の摂取制限があるため、ナトリウム不足を起こす可能性がありますし、アトピー性皮膚炎など広範囲にわたる皮膚疾患がある人の場合は、十分に汗をかくことができなくなるため、体内に熱がこもりやすくなり、熱中症を発症するリスクが高くなってしまいます。

【まとめ】 熱中症が重症化するリスクが高い人の特徴

以上、最新のガイドラインに準拠して、熱中症になりやすい人はどんな人なのか?さらに、熱中症の重症化をもたらす様々なリスク要因について、ひとつひとつじっくりと掘り下げてみました。

特に、高血圧や心疾患、精神疾患などの治療のために一般に服用されている薬剤に、さらには風邪やアレルギー性鼻炎などの症状を緩和するために服用されている市販薬にまで、熱中症の重症化につながるような作用が隠されていることは、案外知られていないのではないでしょうか。

最後に、熱中症の発症リスクを高め、重症化に繋がる可能性のある様々な危険因子を、リスト形式にしてまとめておきます。リスト中の各項目をクリックすることで、このページ内の該当箇所へジャンプできるようにしてありますので、気になった項目があれば、一読だけでもしていただければと思います。

こうやって見てみると、誰しも一つや二つはリスクを抱えていると言っても過言ではありませんね。それぞれの危険因子をリスクとして認識しているか否かだけでも、随分と違ってくると思うので、この機会に自分自身はもちろんのこと、身の周りの人に対する熱中症リスクの評価を見直してみてはいかがでしょうか。

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