加齢黄斑変性のiPS細胞を使った臨床研究の被験者募集が停止されているようです

Category : 加齢黄斑変性症
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現在、iPS細胞を使った加齢黄斑変性の臨床研究の被験者募集が停止されているようです。その経緯も含めて、本臨床研究の直近の進捗状況や見落としがちな限界、さらに加齢黄斑変性に対する再生医療についての今後の展望などをまとめてみました。

加齢黄斑変性症に対する世界で初めてのiPS細胞を使った臨床研究がスタートした2013年8月、当サイトでは、当該臨床研究への参加を希望される被験者さんの募集について取り上げたことがありました。

遂にiPS細胞を使った加齢黄斑変性の臨床研究始動!患者の募集始まる

臨床研究の簡単な概要や、被験者として選ばれるための選択基準などについてご紹介した記事だったのですが、上手く説明しきれていなかったせいか、実はこれまでに何人かの読者様から、質問などのメッセージをいただいておりました。

そして今回、ある読者さまのご要望により、本臨床研究の進捗状況などをあらためて調べてみたのですが、その中で判明した新しい事実を含めて、本臨床研究に対する疑問点や見落としがちな点、さらにこの分野の研究における将来の展望など、本記事で補足的にまとめておこうと思います。

臨床研究の直近の状況について

既に皆様もご存知なように、2014年9月には、本臨床研究の第一例目となる移植手術が実施されました。もちろんiPS細胞から作った細胞の移植手術の成功は、世界初の快挙です。

その後、危惧されていた合併症などが起こることもなく、移植した細胞は所定の位置にしっかりと留まり、現在まで異常も確認されていないとのこと。被験者となった70代の女性は、その約1週間後には無事に退院されました。

但し、移植の安全性や視機能への影響を客観的に評価するためには、約1年間の観察期間が必要なのだとか。今後の経過などに関する情報提供は、重篤な有害事象などが生じた場合を除き、移植1年後に行われるようです。まずはひと安心と言ったところですね。

再生医療新法の施行で計画の見直しが…

ところが、2014年11月に再生医療新法が施行されまして、その新法上の一部の規定と現行の臨床研究体制との間に、法律上若干の齟齬が生じてしまっているのだとか。

現在、新法にのっとる形での計画の見直しが行われており、結論から申し上げると、現時点では加齢黄斑変性に対するiPS細胞を使った臨床研究の被験者募集は、2015年3月19日をもって停止されているようです。

とは言え、臨床研究自体に問題が生じたわけではありませんし、2015年の年央にも2例目となるiPS細胞の移植手術が実施される見通しのようです。現在はその安全性を確かめながら、一例一例を着実に積み上げている状況のようですね。

臨床研究の被験者募集情報をいち早くキャッチするには?

なお、新たな被験者募集情報をいち早くチェックするには、下記の理化学研究所のページを定期的にチェックされることをおすすめしておきます。

滲出型加齢黄斑変性症の臨床研究
理化学研究所のページ「滲出型加齢黄斑変性症の臨床研究」

本臨床研究に関するお問い合わせは以下通り。

先端医療振興財団 先端医療センター病院
〒650-0047 神戸市中央区港島南町 2-2
電話:078-304-5200(代表)

実はこれまでにも、この加齢黄斑変性症に対するiPS細胞を使った臨床研究に関して、多くの質問をいただいております。質問が多かったいくつかの点に関して、あくまで私の調べた範囲ではありますが、この機会にできる限り分かりやすく解説をしておきたいと思います。

被験者の選考基準について

臨床研究の被験者募集に際して公表されていた条件は次の通りです。

  • ”滲出(しんしゅつ)型”加齢黄斑変性の患者さん
  • 年齢が50歳以上の患者さん
  • 視野の中心部分が暗いなどの症状がある
  • 矯正視力が0.3未満である
  • これまでに通常の治療(眼球注射など)を受けて効果がなかった方
  • 現状の治療では再発を繰り返す方

と、患者さん向けにごく簡単にまとめるとこんな感じなのですが、実はより厳密な選択基準、除外基準がありまして、主治医向けに公表されていた臨床参加患者の選択・除外基準についてはコチラを参照していただければと思います。

この辺はやはり主治医の先生に、まずは相談してみるのが第一歩ではないでしょうか。主治医の紹介状と検査データを郵送すれば簡易判定が実施され、その後、診察や検査を経て、最終的に被験者が決定される…そんな流れだったようです。

被験者が負担する治療費について

また、患者さんの費用負担に関しては、臨床研究参加前の事前検査については保険診療となり、診察代や検査代は患者さんが負担しなければなりませんが、被験者として選ばれた後の臨床研究に関わる費用は一切かからないのだとか。

但し、一つ注意すべきことがあります。前述のように、被験者に選ばれるまでには、何度かに渡って診察や検査を受けなければならないのですが、保険診療とは言え、その費用は全て患者さんが負担しなければなりません。たとえその結果、被験者に選ばれなかったとしてもです。この点は心に留めておく必要がありそうですね。

以上、これらのことを含めまして、詳しくは下記の理化学研究所のページを参照していただければと思います。

「滲出型加齢黄斑変性に対する自家iPS細胞由来網膜色素上皮シート移植に関する臨床研究」の研究開始について

本臨床研究の限界について

最後に、本臨床研究に関する”見落としがちな限界”について触れておかなければなりません。

まず、本研究で募集されている被験者数は6名が予定されています。前述のように被験者に選ばれるためには、かなり厳格な基準をクリアしなければなりませんし、当然、多くの患者さんが応募されていることが予想されますので、現実的には非常に狭い門であると言わざるを得ません。

さらに、加齢黄斑変性に対する再生医療はまだ始まったばかりです。現時点での臨床研究の目的は、あくまで移植したiPS細胞がきちんと生着し、がん化しないかを調べ、今後より多くの患者さんの治療ができるようにするためのものです。

ゆがみが改善するなどの効果がみられる可能性はありますが、視力の大幅な改善を期待するものではないという点にも注意しなければなりません。

ちなみに、第一例目の70代女性の患者さんは、手術によりそれまで続いていた視力の低下が止まり、見え方が明るくなったとの感想を述べられているようです。

加齢黄斑変性症の再生医療の今後の展望について

本臨床研究は、網膜組織の一部である”網膜色素上皮細胞”をiPS細胞から作製した新しい細胞に交換するものです。

”網膜色素上皮細胞”とは、視力の要となる”視細胞”に栄養を送る役割を果たしている細胞群なのですが、網膜色素細胞の損傷により栄養が行き届かず、一度機能を失ってしまった視細胞が、網膜色素上皮細胞を交換することで、再び機能し始めることは難しいようです。

iPS細胞による視細胞の移植も

網膜に映った映像を電気信号に変換して脳へ送るという、視力の要となっているこの視細胞の機能が戻らない以上、視力の大幅な改善は期待できそうにありません。

しかし、マウス実験レベルでは、既にiPS細胞から作製した視細胞の移植手術にも成功していることから、そう遠くない未来には、再生医療によって視力の大幅な改善が期待できるようになると信じています。


2年以内には”他家iPS細胞”移植の臨床研究もスタート

また、これまでの臨床研究は自家iPS細胞(患者さん自身の細胞から作成したiPS細胞)を使用したものでしたが、新しい計画では、実用化への円滑な移行を見据えて、他家iPS細胞(他人の細胞から作成したiPS細胞)の使用も検討されているのだとか。

実は、他人に移植しても拒絶反応が起きにくい特殊なタイプの免疫を持つ人が数百人から数万人に1人の割合で存在しており、既に、京都大学iPS細胞研究所では、これらの人から作製した拒絶反応の起こりにくいiPS細胞のタイプを多数そろえて保管しているようです。

自家iPS細胞を使う場合、患者さんから採取した細胞をiPS細胞に初期化した上で、約10ヶ月もの歳月をかけて移植の目的となる網膜細胞に誘導する必要がありましたが、他家iPS細胞を使うことで、研究に要する期間が大幅に短縮されることになるでしょう。

また、この他家iPS細胞移植が実用化された暁には、より多くの人が、より現実的な治療費で、再生治療を受けることも可能となるわけです。研究チームによれば、早ければ2年以内にも、この他家移植の臨床研究がスタートする見通しが示されています。

あとがき

以上、加齢黄斑変性に対するiPS細胞を使った臨床研究についての直近の進捗状況から始まり、よく寄せられる疑問点や見落とされがちな限界、さらにはこの分野の研究にまつわる今後の展望についてまとめてみました。

厳しい現実もありますが、その一方でこの分野の研究に垣間見られる明るい兆しがあることも事実です。現在、この難病に苦しんでおられる患者さんやそのご家族におかれましては、どうか希望を捨てることなく、可能性を信じていただきたいとの思いを込めて…

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